2012年01月

2012年01月13日

患者の服薬行動:Doctor is Big Brother?


proteus
村上春樹さんの「1Q84」三作目も大変売れているようです。アメリカ人である私はこの本の元となったジョージ・オーウェルの1984をすぐに連想しました。それは恐らく最近のファーマ業界の新しいトレンドが、かの本に登場する「Big Brother」を思い起こさせると常日ごろから感じていたからかもしれません。「Big Brother」は直訳すると「偉大な兄弟」ですが、この小説の登場以降、欧米では「独裁者」「監視する人」という意味となりました。完全統制された近未来社会が舞台の小説で、主人公の言動を隅から隅まですべて監視する「Big Brother」の存在に、読者は大きな恐怖を覚えずにはいられませんでした。

 

前回の記事で、薬の容器の電子キャップが開く回数で何となく患者の服薬をトラッキングするシステムを紹介しましたが、監視という役割においてはBig Brotherはそんな可愛いらしいものではありません。比較するなら、こちらのシステムはBaby Brother、生まれたての赤ちゃん程度。

 

次に紹介したいのは、Little Brother(小さい弟)ともいえる電子薬剤容器。服用している薬をこの容器のトレーに入れてふたを閉め、電源を入れます。すると服薬の時間に無線送信機でお知らせが来るのです。ふたがオレンジ色に光り、そこから1時間が過ぎると5分おきに警告音が鳴り始めます。そのままにしておくと、患者が登録した電話やメールアカウント宛に注意を促すテキスト・メッセージが送られ、ささにそのまま放っておくと、介護士やご家族の方に電子メールが届くという仕組みです。こうなってくるとややうるさいですが、それでもまだ可愛いものかもしれません。
最後に紹介する真のBig Brother(恐ろしい兄さん)は、なんと錠剤そのものに付着させる極小のコンピュータ・チップ。このチップは食品とビタミン類から作られているので飲み込むことができ、患者の体内から薬の効果や服用状況をモニタリングします。胃酸の作用で活性化し、体温や心拍数、覚せい状態や体の角度など重要なシグナルを外部モニター(皮膚に張ったパッチ)に送ります。外部モニターを経由したデータはオンラインデータベースや携帯電話に送信され、これらのデータを見れば、服薬状況や薬の効果、副作用を一目瞭然で把握することができるのです。

 

ノバルティスファーマ社が最近、移植や循環器などの疾患領域で上記コンピュータ・チップによる服用管理システムを利用する契約を開発会社プロテゥス・バイオメディカルと約25億円で結んだそうです。発表によると、海外での少数でのトライアルではディオバン服用患者のコンプライアンス率が6ヶ月で30% から 80% に向上したそうです。臨床試験は既に始まっており、2011年後半の発売を目指しているということです。確実に患者さんに貢献するシステムだと思いますが、想像するとなんだかちょっと怖くないでしょうか?

 

Big Brother, can you hear me? (偉大な兄弟よ、聞いてるかい?)



jeffjapan at 13:00コメント(0)Pharma/HealthcareMarketing 
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